インスタントコーヒーフレンズ(2)


バス停と道を挟んだ前にガソリンスタンドがある。
「いと〜ぅっちょ〜っ!」
あたしと刹はスタンドにむかって声をあげる。
給油中の店員が右を見て、左を見て、空を見上げる。
「上じゃないよ〜っ。こっちぃ〜っ!」
あたしたちは両手をぶんぶん振った。そしてあとうっちょの家のある方角を人さし指でツンツンする。
夕方の陽射しと心地よい風が田んぼの苗を揺らし、まるで黄金色のさざ波みたいに見える。キラキラしてた。


いとうっちょ。
いとうっちょはバス停の前のスタンドでバイトしている。
バイトが終わるとあたしたちのいるあとうっちょの部屋に来る、インスタントコーヒーフレンズ(笑)。
おだやかで、やさしくて、ぶっきらぼうだけど、とても好き。
「手 ふったの、気がついてなかったでしょ?」
空をみていた、いとうっちょのあげた足を取りにでた。
「気がつくよ。」
インスタントのコーヒーを啜りながらいとうっちょは答える。
いとうっちょの髪はサラサラでいつもきれいな天使の輪ができている。
緑と黒のチェックのネルシャツが似合っていた。
「うそだぁ。だって 上 見てたじゃん。」
だいすきだな。。。気持ちと裏腹でいじわるな口調になってたかも知れない。
「気がつくのぉ。あの声は月子しかいねぇーよっ。」
「…。」
ぶっきらぼう。でも、穏やかで、やさしい口調。やっぱりだいすきだ。。。



誕生日が5月っていうのは知ってたけど、どうしても‘おめでとう’が言いたくて何日か分らずに当てずっぽうに電話をした。
「明日だよ。」
びっくりだった。
誕生日にはパーソンズの赤いパジャマを、バレンタインには手作りのお菓子をプレゼントしたりした。
いとうっちょは、ぜんぜん嫌な顔しないで受取ってくれる。
むしろ、嬉しそうに笑ってくれる彼は、とってもキュート♪
「もしさ、好きな男がいるとするだろ?」
「…うん。」
「そいつがキスしたいとか、やりたいって言ったらどうする?」
ぶっきらぼう
「…でも、大好きな人でしょ?」
あたしもぶっきらぼう
小さな恋は動かなかった。


しばらくして、いとうっちょはガッコウを辞めてしまった。
「なんで ガッコ やめちゃったの?」‘ぜんっぜんっ聞いてないよ〜’
 
「…べつに。」
 
「…家のこと?」
 
「ちがうよ。
 ただ おもしろくねーからだよ。」

いとうっちょにはママがいない。
‘いとうっちょは優しすぎるから、きっとパパを助けるために辞めちゃったんだ。。。’
勝手にそう解釈した。


それから、
いとうっちょはアルバイトに忙しくなって、
あたしたちは受験勉強があったりで、
高校を卒業して…
みんなで会うことはびっくりするくらい無くなってしまった。


最後に会ったのは…、
あとうっちょが星になった日…。


男の人は泣かないものだと思ってたけど
その日、いとうっちょは肩を震わせて泣いてた。
あとうっちょのパパがいとうっちょの肩を抱きしめてた。
こんなに悲しい日が、最後の日になってしまった。